『大根』

 

ここはとある住宅街。

舗装された道路の端に亀裂があり、そこから1本の大根が生えていました。

 

あるとき一人のオバハンが大根の前を通りがかりました。

 

「んまあっ! なんてド根性な大根なんでしょう! アスファルトの隙間でも命を輝かせるなんて、素晴らしいわ!

これは地域の皆で成長を見守りましょう。私たちもこの大根のように、強く逞しく生きないといけませんわぁ~ね!」

 

そうしてオバハンは我が子のように大根を撫でさすり、よく分からないけれど充実した気持ちで去っていきました。

 

 

別のある日、一人の科学者が大根の前を通りがかりました。

 

「これはどうしたことだ。こんな場所に大根が生えている。

これをどう考えればいい? この辺りの地質や気候に、何か特徴があるのだろうか。

いずれにせよ調査が必要だ。この大根には手を出さず、じっくり観察しなければ。

もしかすると、来る食糧難の時代に生きるためのヒントが得られるかもしれないぞ」

 

そう言って科学者は、ブツブツ考えごとをしながら去っていきました。

 

 

ある夜のこと、会社員のオッサンが一人ふらふらと歩いていました。

酔っぱらってぐでんぐでんの様子です。

オッサンは道路脇の大根につまづき、転んでしまいました。

 

「いってえ! 何ばすっとやこの大根野郎! こげなとこにボーっと生えとるんやなか!

こちとら大企業の役員ぞ、そこんとこ分かっとろうや!?」

 

ひとしきり大根を罵倒した後、なおもオッサンは「ほんに近頃の大根は……」などと毒づきながら、カツラが落ちたことにも気づかず去っていきました。

 

 

あるとき一人の褐色ギャルが大根の前を通りがかりました。

「あー、大根じゃん」

褐色ギャルは大根を引っこ抜くと、家に持って帰りました。

 

さて晩御飯です。

輪切り大根の煮物。葉っぱは味噌汁へ。そのほか塩もみした千切り大根サラダと、サンマの塩焼きに付ける大根おろしも作りました。

こうして褐色ギャルは、大根をおいしくいただきましたとさ。

 

めでたしめでたし。

 

「あーそだ、お父さんこれ落ちてたよ」

そして褐色ギャルは、大根のついでに拾った父親のカツラを、元の場所に戻してあげました。

 

(おしまい)