『輝く人間ピラミッド!~感動はこうして生まれる~』

 

 

ここは、どこにでもある普通の小学校。

秋になり、運動会に関する職員会議が行われていた。

 

6年生の学年主任が議題を提起する。

 

「我が校では毎年、組体操で『人間ピラミッド』を行ってきました。

6年生たちが全員で協力して、5段のピラミッドを組むものです。

しかし昨今、この人間ピラミッドの危険性が取り沙汰されています。

確かに全国で事故が起きており、骨折などの重傷を負った児童もいます。

私も学年主任として、ピラミッドは危険なのでやめた方が良いと考えます。

これについて皆様のご意見をお聞きしたいです」

 

これに対して、教頭がすぐさま発言した。

「今年も例年通り行うべきです」

 

「なぜですか?」主任が尋ねる。

「それがこの学校の伝統だからです。

我が校は開校以来、一貫して人間ピラミッドを続けてきました。

それを今になって『危ないから』という表面的な理由で終わらせるのは、伝統を破壊することになります」

 

主任が反論する。

「何もピラミッドに拘る必要は無いと思います。

組体操には様々なプログラムがあるので、安全なやり方を選べば良いのではないでしょうか」

 

「それでは意味がありません。

古来より一貫して続いてきたピラミッドを受け継ぐことが大事なのです。

これを行うことで生徒たちは伝統を感じ取り、感動が生まれるのです」

教頭も曲げない。

 

そこへ別の女性職員が疑問を出した。

「開校以来と言いますが、年によってはピラミッドを行わなかったこともありますよ」

 

これに教頭が、やや興奮した様子で答える。

「それは次の年度に向けた準備期間で、いわば『中継ぎ』です。

あなたは細かいことにこだわり過ぎている。

もっと、歴史という大きな枠組みで考えてください」

 

女性職員は肩をすくめて口を閉ざした。

 

「人間ピラミッドは今年もやりましょう」

発言したのは校長だった。

「やはりピラミッドには、他のプログラムには無い感動があります。

保護者も大変喜ぶ種目なのですよ」

 

「感動のために生徒へ過剰な身体的負荷をかけることが、教育目的に適うのでしょうか」

主任が詰問するように尋ねる。

 

「いや、まあ、その……」

校長はモゴモゴし始めた。

「やはり保護者の中には、教頭のようにピラミッドへの熱い思いを持っている方々もいまして。

そういう、コアな支持層の期待を裏切る訳にはいかなくてですね……」

 

主任は校長に激辛カレーでも食わせてやりたい気持ちになったが、苛立ちを深い溜息と共に吐き出して座った。

 

「では、今年も人間ピラミッドを行うということで宜しいですね」

教頭の確認に異を唱える者はいなかった。

 

 

「それでは、具体的にどんな生徒をどこに配置するか、という検討に移りましょう」

教頭が会議を進める。一人の職員が発言した。

「ジャンケンかくじ引きで決めれば良いんじゃないでしょうか」

 

「それは宜しくありません」

教頭が言下に否定する。

「生徒は皆、できれば一番下にはなりたくないと考えています。

それを運だけで決められてしまうのは納得できないでしょう」

 

「では、どうするんですか?」

他の職員が尋ねる。

「基準を設ける必要があります」と教頭。

 

「まず、給食費を滞納している家庭や、連絡がいつも滞るところの生徒を下にしましょう。

前者は下層にいて当然だし、後者は普段から学校の事務作業に支障を与えているので、せめてピラミッドには協力して頂きたいです」

 

おおー、と一部の職員から感嘆の声が漏れた。

 

「それからいじめを行っている生徒。

あ、失礼。我が校にいじめは存在しません。

素行に課題を抱える生徒も下にしましょう。

自分の立場を分からせてやる必要があります」

 

やる気なく時計をチラ見していた教員も、これには目を見開いた。

 

「逆に成績優秀な生徒や、教師の言うことを素直に聞く子、学校行事に積極的に参加する生徒などを上にしましょう。

頑張れば良い景色が見られることを経験させるのです」

 

教頭の方針に、大方の職員が頷く。

 

「要するに」主任が口を開いた。

「人間ピラミッドは、教師が普段から生徒や保護者に抱えている鬱憤を晴らすために行うのですね」

 

「いいえ」

教頭は胸を張って、爽やかな笑顔で答えた。

「我が校の伝統だからです」

 

 

こうして運動会の日を迎え、今年も組体操のクライマックスに人間ピラミッドが行われた。

生徒たちは練習の成果を存分に発揮し、保護者や教員を大いに感動させたのだった。

 

(おしまい)